店長に成り立てのころは、失敗の連続でした。特に店長1年目なんて酷いものです。自分の持っている権力や、周囲のスタッフが自身をどう見ているのかを全く理解せず、スタッフを戸惑わせているばかり。
当時の私は自尊心が高く、失敗を恐れる、全く余裕のない店長だったのです。※イチ社員でいた時の私は非常に評価が高く、任されている業務を全て把握し、知らないことも出来ないこともなく、自身に満ち溢れて傲慢になっていました。
今思うと、初めての店長なので出来ないこと分からないことだらけなのは当然です。ちょっと仕事をすれば「あれどうやるの?」と質問し「店長、これ違います」と言われるような状況です。
だからこそ、そうした自身の未熟な部分をしっかり自らが認め、それを開示し、素直に周囲の力を借りれば良かったのです。
しかし、イチ社員の時代に膨れ上がった傲慢さと自尊心が邪魔をしたのです。ひたすら背伸びをして、自分で勝手に作り上げた「あるべき店長像」から外れることを極端に恐れ、そう在らなければならない!と自分で自分を洗脳してしまっていました。
実力不足なのに、背伸びをしている上司ほど、頼りないものはありません。
失敗しても、謝らないし認めない、最悪な店長だったと思います。
今日はそんな新人店長時代にやってしまった失敗について書いていきます。
時給におけるスタッフ同士のトラブル仲裁でやってしまった最悪な対応
店長になり、2~3ヶ月目のことです。
ある日、若い女性スタッフ(Aさん)から相談を受けました。彼女は化粧品全般を担当している方でした。少し引っ込み思案なところがあり、発言は消極的でしたが、真面目に業務をこなしてくれる優秀な方でした。
「他部署のBさんから、時給のことで影で悪口を言われているし、直接嫌がらせも受けている。なぜか私の時給を知っている」という相談内容でした。
BさんはAさんよりずっと年上で、店の古株の方です。仕事は真面目なのですが少しおしゃべりが多く、おしゃべりが過ぎてトラブルになることも数回ありました。一方で、古株であり、ユーモアがある方だったので、他スタッフからの人望はある方でもありました。
時給について調べてみると、前任の店長が若いAさんの方をBさんより評価しており、Aさんの方が時給が高かったのです。時給は基本的に他言無用ですし、厳重に情報を管理しているはずですが、大勢が勤務している職場では、時たまこういうことが起きてしまいます。
私はAさんから相談を受けた後、Bさんと話をしました。Bさんは、後から入ってきた若いスタッフが、自分より時給が高いことに対して納得できない、と、大変怒っていました。
AさんとBさんは他部署のため、やっている業務がそもそも違い、役割も違うため単純に比較が出来ないのです。しかし、こうしたことをひたすら説明しても。全く怒りは収まりませんでした。
どうしてここまで怒るのか、当時は理解できませんでした。
私はこれ以外にも、こうした人間関係のトラブルをいくつか抱えており、これ以上増えてしまうと正直しんどいと思い、最も安易で手前勝手な判断を取ってしまいます。
Aさんに時給を下げる提案をした
トラブルを収めるために、Aさんに時給を下げる提案をしたのです。
Aさんの素直な性格を利用してしまったのです。
Aさんは少し戸惑っていましたが、「それでこの状況が改善するなら」と承知してくれました。
このとき、Aさんに消極的なところがあり、店長にそう言われたら「はい」としか言えず、心の中では大変ショックを受けているだろうことは、この時気づいていませんでした。
それを聞いたBさんの反応
私はAさんに時給を下げる提案をして、承知をもらっていますから、Bさんにその内容を伝えにいきました。
「Aさんの時給を下げるから、もうAさんの時給のことで陰口を言うことと、嫌がらせを止めて欲しい」
私はこれでBさんの怒りは収まり納得してくれると思っていましたが、Bさんは驚いていて、その後バツが悪そうな表情になりました。
私は少し反応に対して意外だなとは思いましたが、大して気にもとめず、Bさんの望み通りの対応をして、Aさんも状況が改善するならと納得してくれているから、これで解決したと、安心していました。
その数日後
Aさんが出勤しなくなりました。そして、さらに数日後、Aさんのお母さんから本社に電話が入ります。「娘が同僚から嫌がらせを受けていると店長に相談したら、時給を下げられた。ショックで出勤できない」
当時の上司が即座に店に飛んできて、私は大変なお叱りを受けました。
当然の結果です。
今思うと、とんでもないことをしてしまっており、あり得ない判断だと分かるのですが、当時の自身がなく一方で自尊心の塊であった私は、これ以上のトラブルが起こり、店長の責務が果たせないことばかりに思考が硬直しており、
全くもってスタッフに目を向けていなかったのです。
その結果、おそらく小学生でもダメなことと分かるような判断を店長の職責にある人間が行ってしまったのです。
そして、最終的にAさんは退職してしまいました。
認めるしかなかった自分の実力不足
今なら、何がダメというのはいくらでも分かるし、こうすれば双方納得した解決に導ける、という自信はありますが、当時は本当に浅はかで経験も知識もなく、全くもって問題に対処出来ませんでした。
そして私は、この経験から大変大きなことを学びました。
自尊心なんてくそくらえ
相手を顧みず自分中心、店長都合の安易な判断を下してしまった原因は、「自分は店長であり、店長ができる人間であるはずだ」という、実績も実力もないのに、ペラペラな自尊心を持ってしまっていたことです。
解決しなければならないし、解決出来るはず、という思い込みと自尊心が、最悪で安易な判断をしてしまい、スタッフを傷つけ、店の貴重な人材を失うことになってしまったのです。
しかも、それを店長という肩書を持つ人間がやってしまった。
この事実を受け止めることは衝撃的で、心底落ち込みました。時間が経てば経つほど、なんて馬鹿なことをしてしまったんだと思うのですが、当時の私はそれが最良の判断と思っていたのです。
この時私は、「自分なら出来るはずだ」「店長はこうあるべきだ」という、今回の失敗を生む元凶になってしまった、自分の自尊心を全て捨てました。
「今の自分は何にも出来ない」「店長像を自分で決めずにスタッフ一人ひとりが望む店長になるんだ」と心に誓いました。
そこから、私はどんどん変わり、今までできていなかったことに向き合うようになりました。
- 自分の出来ないことを受け入れる
- 相手の話を決めつけずに最後まで聞く
- わからないことは謙虚に聞く
この3つを強く意識して店長業務をやるようになりました。
Bさんが本当に言いたかったことは?
ある日、社内月報にBさんが特集され掲載されていたのです。私はその時すでに別の店舗に異動していたのですが、その掲載内容に驚きました。
内容は、素晴らしい売り場を作って売上実績を上げたことでした。現店長からのコメントには、「コミュニケーション能力が高く、色々な人を巻き込み大きな結果を出してくれる」と書かれていました。売り場の画像もありましたが、その通りたくさんの人の力を借りて完成させなければ出来ない売り場になっていました。
私の中でのBさんは、おしゃべりだけど上司の話を聞かない、という評価でしたが現店長にはコミュニケーション力が高く周囲を巻き込める人材という評価なのです。
全くもって、私のもっているBさんの印象と、社内月報で特集されているBさんの印象が合わないのです。
ふと、当時のことを思い出し振り返り、どうしてBさんはAさんの時給を下げたと報告した時に驚いて、バツが悪そうだったんだろう?と考えました。
これは推測でしかありませんが、Bさんは、Aさんの時給を下げてほしいとは思っていなかったのではないでしょうか。
それよりも、Bさんが自身の今のやっている業務や、私を含めた上司との関係など色々なことに不満を持っていたのです。Bさんは当時私のことをそもそもあまり信用もしていなかったから、一番わかりやすい時給のことを持ち出して、私に不満をぶつけてきたのではないでしょうか。
今となってはわかりませんが、当時Bさんと話をしたときも、時給のこと以外の不満も私に言っていたはずです。しかし私は「Bさんは時給が不満なんだ」と決めつけてしまい、他の話に耳を傾けていなかったのかもしれません。
当時はAさんの時給を下げてBさんの溜飲を下げること以外に解決が無いと思っていましたが、きちんと話を聞いていれば、他の手段がたくさんあったかもしれないのです。
相手が本当は何を言いたくて、どうしてほしいのか?これを見極めることがトラブル解決にはとにかく重要であると気づいた経験です。
店長として大きな失敗を経て、信頼される店長になりたいと強く思った
独りよがりや思い込みではなく、一緒に働いている店のスタッフを幸せに出来る、この店で働いていて良かったと思ってもらえる、そういう店作りが出来る店長になりたいと強く思うようになりました。
意気込んでやった店長ですが、このままでは一人のスタッフを傷つけ退職させてしまっただけです。今までやっていた業務が、いかに自己満足でレベルの低いものだったか思い知りました。
今までの自分がどれだけ店長含めた上司に甘えて来ていたのかにも気付きました。
信頼される店長になるために、今の自分に足りないものなんであろうか?信頼されている店長はどんなことを考えて仕事をしているのか?ということに凄く興味を持ちました。
ネットで「店長 心得」と入れて検索すると、山のように情報が出てきますし、「信頼される店長とは」のような書籍も山ほど存在します。
店長はみんな、同じことで悩んでいますし、信頼される店長も、昔は失敗を繰り返していたと分かりました。そしてそこから学び、成長し、今があるのです。
それから私はとにかく勉強し、先輩店長にもたくさん質問をして、店長としての考え方や立ち振舞を大きく変化させていきました。
そこから少しずつですが、トラブルを解決出来るようになり、信頼を積むことが出来るようになったと感じています。
この失敗をしてそれに気づいた時は、正直、あまりの自分の馬鹿さ加減に呆れてしまい、店長を辞めようかと本気で考えました。
当時は本当に辛かったですが、未熟な自分に気付き、店長としてのあり方を見直す大きな転機となりました。1人を退職させてしまっていますから、良い経験とは言えません。
しかし私にとっては大変重要な経験であり、今後二度とAさんのようなスタッフを出さないことが私の使命であり、店長としての務めであると思っています。
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