2022年5月末、19時ころ、店舗裏側の入り口付近で、生まれたばかりの仔猫5匹が見つかりました。
店舗周辺をパトロールしていた設備員さんが発見したのです。
私は退社する前のルーティンで店舗をぐるっと回り、事務所に戻ったところ、スタッフの何人かが事務所の地べたに円になって座っているのが視界に入りました。
ミーミー鳴き声がするので、まさかと思い座っているスタッフ達の中央を見ると、ビニール袋に入った子猫が5匹いました。
その子達が必死に鳴いていたのです。
私も猫を2匹飼っていますから、他人事ではありません。また、中学生の時に生後1週間の捨て猫を拾って飼った経験もあるので、なおさらです。
パニックになりつつある頭をとにかくフル回転させ、対応を考えました。
助けようと子猫のために必死に動いてくれるスタッフ
即座にスタッフに指示を出し、小さめのダンボールとタオルとお湯を入れたペットボトルの用意、売り場にある子猫用ミルクとスポイトを持ってくるよう伝えました。
そして、スタッフが事務所から出ていったあと、改めて子猫が入っているビニール袋を見ると、2匹以外動いていないんです。「死んでいるかもしれない。」そう思いましたが、情けない話、私には実際に触れて確認することが出来ませんでした。
生まれて恐らく数時間で動かなくなっている現実が、衝撃的過ぎたのです。
間もなくスタッフ達が戻ってきました。みんな必死になってなんとかしようと動いてくれていました。
そして内1名の女性スタッフが、「この子息していない、この子大丈夫」と心臓の鼓動が分かるよう1匹1匹触って、生きている子と亡くなってしまった子を分けてくれたのです。
小動物とはいえ、生まれたばかりの赤ちゃんの亡骸に触れることは簡単ではありません。誰だって少なからずメンタルダメージを負いますし、触れた感触はしばらく忘れることは出来ないでしょう。実際私には出来ませんでした。それを承知で迷うこと無く触診をしてくれたのです。
※後で知ったんですが、このスタッフは猫を数匹飼っており、誰よりも放置猫ちゃん達に感情移入していたはずで、死との対面は避けたかったに違いありません。
このスタッフ以外も、ダンボールにお湯の入ったペットボトルを入れタオルを被せ小屋を作ったり、テキパキとミルクをスポイトで吸い上げ、飲ませようと一生懸命になってくれていました。放置猫のために、率先して動き最善を尽くそうとする、素晴らしいスタッフ達です。
このあとどうする?
問題はその後です。ひとまず応急対応したとて、このあとこの2匹と息を引き取っている3匹をどうしようか?まったく解決策が思いつきません。私自身も2匹猫を飼っており、これ以上飼うことは決断できませんでしたし、貰い手も簡単に見つけられるものでもありません。
また何より、子猫たちは生後間もない、目も開いていない子猫です。
母猫ナシでは、そもそも育てることがほぼ不可能です。
まず保健所と市の動物愛護センターに電話しましたが、閉館していて繋がりません。その後はスマホで周辺検索をして、藁にもすがる気持ちで動物病院に片っ端から電話をかけました。少しでも誠意が伝わればと思い、はっきりと、店舗名と店長名を名乗り電話をしました。「ご迷惑は承知です。」と状況を説明し、引き取って頂けないか交渉するも、全滅です。
きちんと話も聞いてくれて、こちらへの労いやアドバイスもくれる動物病院さんもたくさんありました。
しかし引取りへの答えは全てNoでした。
今考えれば当たり前です。
動物病院の方たちはプロゆえに、母猫がいない状況で子猫を育てることの難しさを知っているのです。
20件以上電話したと思います。
3匹は既に亡くなっている状況。恐らく生存している2匹は明日の朝を迎えられないだろうと、絶望に包まれました。
小売業人生で一番無力を感じた瞬間
私が店長をしている店舗はGMS(ゼネラルマーチャンズストア ※総合スーパー)業態といって、食品・生活雑貨・家電・衣料・玩具まで幅広く品ぞろえし、ワンストップショッピングを標榜している店舗です。店舗を回ればよほどマニアックなもので無い限り何でも揃います。そして私は店長ですから、ある程度の数の従業員を動かすことが出来るし、集客を利用して何かを宣伝することも出来るし、それなりのお金を使う決裁権も持っています。取引金額も小さくありませんので、交渉事も難しくはありません。
そして支社長でもあるので、その支社のルール全てを決定できる大きな権限もあります。
仕事ではそれなりの困難を乗り越えてきたし、職場の人間関係のこじれも解決してきたし、その他営業にまつわるトラブルも一通り経験し解決してきました。
店長ましてや支社長となれば、その管轄店舗で発生することであれば、何でも解決出来ると思っていましたし、実際解決してきました。
それなのに、目の前の小さな子猫2匹の命を救うことが出来ないのです。
助けてくれるのはいつも店舗スタッフ
私は無力感でいっぱいでしたが、最後の望みで、本来は良いことではないのですが、店舗のスタッフに店舗内線で、「引き取ってくれる方いませんか?」と頼みました。さらには猫をたくさん飼っているスタッフに電話もしてしまいました。※今となってはパワハラと取られても仕方ない行為で、反省しており、後日そのスタッフには謝罪をさせて頂きました。
当然ですが、Noの回答ばかり返ってきます。当たり前です。目すら空いていない子猫ですから。
私はこの状況でもずっと子猫たちを温め、なんとかミルクを飲ませようと必死になっているスタッフたちをぼんやり眺め、「この子猫をどう看取ろうか」ということを考えており、家には連れて帰れないから、店に泊まろうかとも考えていました。
諦めていたんですね。
すると、事務所の奥でずっと電話をし続けていた一人のご年配のメイトさんが、電話を切り、落ち込んでいる私に近づき、こう言ったんです。
「店長!引取先が見つかりました!」
私は直ぐには意味が理解出来ませんでした。「え?どういうこと?」「だから引取先が見つかったんです。」「ええ?嘘でしょ」「本当です!」こんなラリーが数回あったと思います。あまりにも動転していて、ここはあまり覚えていません。
そして少し落ち着いてきて内容が理解出来たので、「どうすれば良いの?どこに連れていけばよい?」と聞くと「今から直ぐに引き取ってくれる人が店に来るから、どこに行かなくても良い。大丈夫!」と言うんです。
神様に見えた、動物愛護活動をしているボランティアさんご夫婦
本当に数分で、店舗まで駆けつけてくれました。
電話をしていたご年配のメイトさんは、ご自身も猫を飼っており、動物愛護の活動をしているそうで、その活動を通して出来たお知り合いの方に電話をし、呼んでくれたのです。
そのボランティア活動をしているご夫婦は、生存していた2匹だけでなく、亡くなっていた3匹も引き取ってくれるというのです。※亡骸の処理に大変な精神的ダメージがあることを理解してくれているのだと思いました。そして子猫の入ったダンボールと、3匹の亡骸の入った袋をお渡しすると、簡単な状況説明だけ聞いて、何の請求も条件も付けずに、すぐさまお店から出ていこうとしました。
なんとか感謝を伝えようと、去り際に交わした会話が忘れられません。
私が「本当にありがとうございます。出来ることがあれば何でもしますので何でも申し付けてください!お店には何でもありますから」と言うと「ではこの子達が乗り越えたら、里親になってください」と笑顔で言われました。
私は返す言葉がなく、沈黙してしまい、お辞儀をして見送ることしか出来ませんでした。
私は本心から、ご夫婦の手伝いを申し出たつもりだったのですが、
お金や物では解決できない現実がそこにはあり、自分の時間と労力を費やし、何より死と向き合う覚悟がない限り、この状況で何も手伝うことは出来ないんだなと気付き、安易な申し出をしてしまった自分が恥ずかしくなりました。
正直、ご夫婦に子猫を引き渡した時、死と向き合わずに済んだという安心を覚えたことも事実です。
ご夫婦は、恐らく私のそうした心理を見越してあえて厳しい言葉を言ってくれたんだと思います。
「無理しないで大丈夫ですよ。付きっきりでミルクあげたり、夜泣き対応出来ないでしょ。」
暗にそう伝えてくれた気がしました。
この時私は、自分の無力さと動物愛護活動への認識の甘さを痛感し、里親にはなれませんが、必ず自分の今できることを駆使し、子猫を引き取ってくれたボランティアのご夫婦にお返しをしようと誓いました。
動物愛護掲示板の設置
仔猫たちを引き取ってもらった翌日から、ご夫婦へのお返しをどうしようか考え続けました。里親になることは出来ません。それでもご夫婦のような動物愛護活動をしている方々に、店長としてなにかお返しがしたかったのです。
そこで考えたのが、保護猫/犬掲示板の設置です。私は動物愛護の保護活動を一緒にできる訳ではありませんが、多数のお客さまをたくさん集客出来る店舗の責任者です。
保護活動において、里親探しは重要です。また、保護活動を知ってもらうこと、そしてノラネコ/ノライヌの問題について、世間に知ってもらうことも、今回のような悲劇を減らす第一歩です。
こうしたことのお手伝いが、多数のお客様が目にする店舗の入口に掲示板を作ることで出来ないかと考えました。
そうして、店舗の入口に「動物愛護掲示板」を大々的に設置することにしました。
この提案については、ご夫婦も喜んでくれぜひポスターやパンフレットを置かせてくださいと言ってくださいました。
実際に掲示板が完成し、ご夫婦が共に活動している団体や動物病院などの保護猫ポスターを掲示すると、ここの掲示板を見たという反響が少なからずあったということです。
この報告を受けた際、ようやく少しだけ、あの時の恩返しが出来たと、大変嬉しく思いました。
私は店長として、あの時の感謝をカタチにして伝えることが出来、そして保護活動においては、譲渡会の集客や里親探しの効率化が進み、活動の効果が出やすく、また幅も広げることが出来たのです。
さらに、今後は店舗のスペースを使い、保護猫の譲渡会や、保護活動の講演なども実施していく予定です。
今回、2匹の仔猫に対し、私は店長としても私人としても何も出来ませんでしたが、こうして保護ボランティア活動を陰ながら応援し、少しずつでもご夫婦及びボランティア団体様へ御恩を返していくことが使命だと思っています。
仔猫2匹のその後
その後については、ボランティアご夫婦を呼んでくれたスタッフさんや、ご夫婦から直接連絡を頂き、状況を知ることが出来ました。
まず翌日、スタッフが声をかけてくれ「店長!あの仔猫たち一晩乗り越えましたよ!」と教えてくれました。そして動画を見せてもらいました。あの後すぐボランティア活動に力を貸してくれている動物病院に連れていってくれたそうです。ボランティアさん同士の繋がりと信頼関係があるから、あんな時間でも対応くださるのですね。
その動画には、病院でミルクを与えられている様子が写っていました。私は正直、このまま一晩乗り越えられないのではないかと思っていたので、それを見た時、事務所のデスクでそのまま泣いてしまいました。元気にミルクを飲んでいるシーンを見て、心底感動し、そして安心したのです。
預けられた動物病院で起こった奇跡
そしてその動物病院で奇跡が起こったのです。その動物病院でも保護猫の活動をしているので、たまたま2匹と同時刻に、別で保護された母猫と仔猫4匹の家族がいたのです。
母猫は本能で子育てをしますから、もしかしたらこの2匹も自分の赤ちゃんと思い子育てをしてくれるのではないかということで、2匹を母猫のお腹に近づけ、仔猫がおっぱいを吸うか、そして母猫が受け入れてくれるか試してくれたのです。
動物病院の先生曰く、仔猫はおっぱいを吸うが、母猫が受け入れるかどうかは半々なのだそうです。
- 自分の子ではないと判断し排除してしまうか
- 本能で子育てをしてくれるか
結果、その母猫は2匹を受け入れ、自分の子どものように世話をしてくれたのです!おっぱいを吸いだすと毛づくろいをしてあげ、その後はおしりを舐めたり、お腹付近で一緒に寝かせてあげたりしてくれたのです。先生が2匹を検査で離そうとすると「シャー!」といって威嚇までしたそうです。
完全に自分の子どもだと思ってくれているんです!こんなことが有り得ますか!?
母猫の行動の凄さ
母猫が受け入れてくれたことで、まず仔猫2匹の生存確率が大幅にあがりました。母乳で育つことにより、免疫も強くなります。母猫から受け継ぐことが出来るんですね!
そして、母猫がいない仔猫の場合、下記のような対応を人がやる必要があります。
- 体温調整が出来ないため、常に一定の温度で保温する
- ミルクを飲んだあと、ゲップをさせる
- 排泄が自力で出来ないため、おしりを刺激し排泄を促す
- 夜鳴きした場合の寝かしつけ
- 目やに鼻くそなど衛生管理 etc・・・
本当に生まれた直後の仔猫の場合、夜中でも2時間おき程度に様子を見て、こうした対応をしなければなりません。
しかし、母猫が受け入れてくれたことで、これら全てを任せることが出来たのです。
2ヶ月経過し里親へ譲渡が決定!
つい先日、7月末のことです。あの2匹が同時に里親に出ることが決まったと報告を頂きました!私はこのとき嬉しくて、あの時事務所で対応してくれたスタッフや、その後話しを聞いて心配してくれていたスタッフ全員に声を掛けて回りました。
みんな感動してくれ、すごく喜んでくれました。
そして何よりあの時引き取ってくれたご夫婦と、その動物病院の方々、そして受け入れてくれた母猫に感謝はもちろんですが、あの状況から命を救い、人間の家族に迎える状況にしてしまうことが、あまりに凄すぎて信じられない気持ちでした。
もちろん、里親の募集は、店舗に設置した掲示板経由です!
たくさんの学びと地域との繋がりが出来た経験
現在私は2匹の猫を飼っています。中学生の時、放置猫を拾い自宅に連れて帰り家族として迎え育てた経験もあります。猫が好きでプロフィールには愛猫家と書いてきました。人一倍猫に対しては強い愛情を持っているつもりでした。
しかし、保護猫活動をされている方々は、単純に猫が好きとかそういう次元ではないと強く思わされました。誰だって小動物が捨てられている、亡骸を目にするのは、気持ちの良いものではありません。猫だって痛みも感じますし、寂しい辛いなどの感情もあります。
そうしたノラネコ達にまつわる憂い全てを無くそうと行動しているのです。
しかも全くの無償で。
せめて出来ることは寄付ですが、今回の事案ではお金やモノでは解決できません。スピードと人脈が必要でした。活動を続けている実績と信頼関係があったから動物病院は遅い時間に、生まれたての仔猫でも引き取ってくれました。里親さん探しも譲渡会も同様、信頼と実績が全てです。
全ては、声を上げるだけでなく、お金やモノを寄付するだけでなく、行動しなければ何も変えられないのだと強く学びました。
そして、恩返しとして掲示板を作成したことでは、予想だにしない素晴らしいことがたくさん起きました。
敷地内で見つかった2匹の里親が見つかったことはもちろんですが、最初に出会ったご夫婦以外にも、たくさんの活動団体さんや動物病院からお問い合わせをいただくことが出来ました。中にはお礼を言ってくださる方もいて、それはそれで嬉しいんですが、「皆様が行っている活動に比べたら本当に微々たるものです」といつも返させて頂いています。
また、お客様からも賛辞を頂戴しました。放置猫を見かけたり、保護したりしたことがある方は一定数いるんですね。そうしたお客さまから、掲示板の取り組みを褒めていただいたり、これがあるって聞いたから来店した、というお客様もいらっしゃいました。猫好きだったり、里親を検討しているお客様だったんですね。
さらには、スタッフにも好影響がありました。「誇らしい」「私も猫飼ってるからこういう活動している店が好きになった」などの声が私に届いたのです。
これらは全く予想しておらず、とにかくボランティさん方への恩返しと、なにかしなければ気が済まない私の想いから始めたので、完全な副産物でした。
結果として、あの2匹は、
- 保護猫活動の効率化と認知度UP
- 店のイメージUP
- スタッフモチベーションUP
これらをもたらせてくれたんですね!!
今後も、保護猫活動への協力は微力ながら続けていきます。そして今であれば少しだけ、ボランティアさんたちとの信頼関係も作れたので、あの時よりも良い対応が、店としても出来るはずです。
今ごろあの2匹は里親さんのもとで幸せになっていることだと思います。
生きているだけで人を幸せにし、感動させ、行動を起こさせる!
猫ってやっぱり素晴らしい存在だなって思います!
以上、長々読んでくれてありがとうございます!
それでは~
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